経営に頼られる人事、AIに食われる人事

「人事の仕事はAIに奪われる」という話を耳にする機会が増えました。

採用、面接調整、勤怠処理、書類作成——これらは自動化や外部委託化が進んでいます。さらにAIの進展により効率化が加速しています。今後AIソリューションの種類が広がることで、「人事担当者がやらなくてもいい仕事」はさらに増えていくでしょう。

ただ、本当に人事の仕事はAIに奪われるのでしょうか。

確かに、AIに食われる人事がいる一方で、経営から本当に頼りにされている人事がいる。その差は、何から生まれるのでしょうか。私がこれまで接してきた人事の方々の姿から、考えてみたいと思います。

 

「中期経営計画の売上進捗が悪い。」— 人事にできることがある。

ある人事担当者のことが、ずっと頭に残っています。

その会社では中期経営計画、特に新規ビジネスの売上進捗が芳しくない時期がありました。事業部が対策を講じるのは当然ですが、その状況を受けて、その方は「人事として何ができるか」を考えた。そして、新規ビジネスの立ち上げを加速させるためのプログラムを社内に提案したのです。

「また、人事が研修を企画してきたよ。」 — 最初の反応はそういうものでした。経営も同様でした。

ただ、その内容は本当に自社人材の課題を突くものでした。「なぜ中計の進捗が遅れているのか」という問いに対して、的を射た回答になっていました。かなり現場を巻き込むプログラムでしたので、最初から多くが共感してくれるものではなかったですが、その熱意から何とかスタートに漕ぎ着けました。そして、社員に変化が現れ、ビジネスが加速するという結果が出ました。今では、その取り組みが人的資本経営の施策の一つになっています。

この方が普通の人事と何が違ったか。

事業のことを、経営者や事業部サイドと同じ目線で理解していたことだと思います。「人・組織の視点から見た課題」だけではなく、「この会社の事業が今どこで詰まっているか」を自分の問いとして持っていた。人と事業の両面から導き出された課題だったから、人事の提案が経営の文脈と一致したのです。

 

「この仕事、あの人が向いていると思います」が言える人事

もう一人、印象に残っている方がいます。

次世代の幹部候補を聞かれた時、新しいビジネス立ち上げに向けて接点を持ちたい顧客とのつながりを持つ社員を聞かれた時、その方はすぐに候補者を提示することができます。「彼は今後伸びると思います」「以前、こういう仕事をしていたから繋がりあると思います」— そういった言葉が、すぐに出てくる。

「え、そういう能力あるの?」「そんな仕事やっていたの?」というレベルで情報を掴んでいます。

タレントマネジメントツールだけでは見えてこないような情報こそが意思決定には重要で、本当にありがたいのです。

その方は、社員のことをよく知っていました。性格や得意不得意だけでなく、大学時代からどんな仕事をしてきたか、どんなプロジェクトでどんな役割を担っていたか。そしてキャリアへの思い。日頃からよく話しかけ、よく聞いていた。だから社員からも信頼されていました。

経営者も事業部門も、日頃の仕事の繋がりでは偏った人材情報しか分かりません。「人のことをよく知っている」 — その価値は、人事だからこそ出せる、得難いものです。

 

経営に頼られる人事が持っているもの

経営層や事業サイドから頼られ、一目置かれる人事には、共通した特徴があります。

一つは、「事業」に踏み込んでいること

ルーティン化された人事業務だけを回していると、なかなか経営や事業に触れる機会がないかもしれません。ただ、日々刻々と進化する事業を理解せずに、その会社に適した人・組織の課題設定や施策は打てません。経営や事業サイドとはどんどん距離が開いていきます。

信頼されている人事は、経営課題にアンテナを立てていますし、現場の情報を収集しています。そこから生み出される人事課題や施策は、事業サイドから見ても納得感のあるものになっています。

もう一つは、人事ならではの「価値」を出せていることです。

実は人材育成については、経営者や事業サイドの部門長もそれなりに土地勘があります。経営に関係するトレンドも追っています。そこに対して、他社がやっている人事施策を「うちも取り組みましょう」と言っても、必然性が腹落ちしません。

信頼を得るためには、専門性を磨き、その会社の人を知り、組織における適切な課題設定や施策を提言する必要があります。さらに、「人」を担う部門として経営から社員まで広くよく知っているというのは、どうしても社内人脈に関して視野が狭くなりがちな経営や事業サイドの人間からしても、替え難い価値になります。

これらを持っていることで「経営のパートナー」に近づきます。

 

AIに食われないために

人事作業を回し、人事施策や事例を情報として持つことに留まっている人事にとっては、AIは脅威になるでしょう。でも、ビジネスを理解し、社員を知り、経営者以上の専門性で提案できる人事にとっては、AIは仕事を楽にしてくれる道具になります。「経営から頼られる人事」は、AIが普及すればするほど、その価値が際立っていくのではないでしょうか。

 

おわりに

経営と事業サイドを巻き込む施策を考えたい、人事として経営のパートナーになりたい — そういう思いを持っている方は、ぜひご相談ください。まずはあなたのパートナーとして一緒に考えます。

 

このテーマについて相談する

組織変革・人材育成・リーダー開発に関するご相談を受け付けています。現在の状況や感じている課題をお聞かせください。