1on1の前に、まず観察を — 管理職が見落としがちな、部下理解の入り口

「しっかり話していたつもりだったんですけど、実は部下の業務がうまく回っていなかったことに気づかなかったんです」

管理職になりたての人と話していると、こういう言葉をよく聞きます。1on1もやっている。声もかけている。それでも、問題が出てきてから気づく状態。

原因を聞くと、「大丈夫という言葉を信じてしまった」「本音を引き出せなかった」「もっと業務管理をしようと思います」という答えが返ってきます。何かしらの対策を打とうと考えています。でも、その反省がまた「もっと話す」「管理する」という方向にだけ向かうと、同じことが繰り返されるかもしれません。

問題は、コミュニケーションの量や質だけではないからです。

 

コミュニケーションより先にあるもの

部下が自分の置かれている状況や仕事の良し悪しを、正確に言語化できるとは限りません。「困ったことはある?」と聞いても、本人も困っているとは思っていないことが多い。業務の進行上に問題があっても、それに自分でも気づいていない場合もあるし、気づいていても「挽回できる範囲」と思っていることもある。だとすれば、引き出そうとすること自体に、そもそも限界があります。

管理職が見落としがちなのは、観察です。

1on1の場で何かを引き出そうとする前に、日々の仕事の中で部下を見ているかどうか。業務の進め方、周囲との関わり方、詰まっている時の様子、うまくいっている時の状態——そういった日常の断片を積み重ねることで、初めて見えてくるものがあります。

「本音が引き出せなかった」という時、実は観察が足りなかったり観察した内容をうまく使っていないことから発生しているケースも多いです。会話の場で何かを引き出そうとしても、その前の観察がなければ、問いの精度が上がらない。何を聞けばいいかが見えてこないのです。

 

事実を起点にする

SBI法(Situation・Behavior・Impact)というフィードバックの手法があります。Situation(状況)、Behavior(行動)、Impact(影響)の順で伝えることで、相手に届くフィードバックになるという考え方です。

このフレームワークの起点は「事実」です。観察によって得た具体的な場面があるからこそ、相手に届く言葉が生まれる。

「最近、困っていることはない?」という問いかけと、「先週の会議で、いつもなら意見を出してくれるあなたが一言も発言しなかった。何かあった?」という問いかけでは、届き方が全く違います。後者は、見ていたからこそ出てくる言葉です。

いきなり部下の内面にアクセスするのではなく、「あの時、ああいう状況で、あなたはこうしていた」という事実を起点にすることで、部下自身もその時の状況を思い出しながら、「実はあの時こんなことが起きていて・・・」と切り出しやすくなります。結果、本音を引き出しやすくなる。その違いは、観察の有無から生まれます。

 

観察が変えるもの

成人発達理論でも、人は業務環境によってパフォーマンスが上がったり下がったりすることが示されています。能力の問題ではなく、状況との相性の問題です。同じ人でも、任される仕事の種類、チームの雰囲気、関わる相手によって、全く違うアウトプットが出ることがある。

この視点を持てるようになった管理職は、アサインの仕方が変わります。

「この部下はなぜ成長しないのか」という問いから、「この部下はどういう状況だとアウトプットが出やすいか」という問いへ。すぐに成長を求めるのではなく、今この人がパフォーマンスを発揮しやすい場所を自分で把握して対応する。そういうスタンスになっていきます。

良い意味で、過度な期待をしなくなる。それは諦めではありません。部下をよく見ているからこそ生まれる、現実的で丁寧な関わり方です。「この仕事はあの人に向いている」「今のあの人にはこのくらいの負荷が合っている」という判断が、観察の積み重ねから生まれてくる。アサインの精度が上がると、部下も無理なく動けるようになり、結果として成長のスピードも変わっていきます。

 

観察から生まれる問い

観察することのもう一つの意味があります。

観察を通じて感じたことを、問いにする。「あの時、こういう状況だったと思うんだけど、何かあった?」という問いは、「最近どう?」とは全く違う深さを持ちます。部下はうまく話そうと取り繕うのではなく、その時の体感覚を持ちながら、自然と自分の内側を言語化し始めます。

その時のシーンを特定することで、自然と起きている状況や感情、思考を引き出す土台になる。そして管理職が本当に手を打ちたい真因は、そこから見えてくることが多い。

昨今はリモートワークも普及しており、自然と観察することが失われているかもしれません。だからこそ、意識的に社内のミーティングであれ、顧客との打ち合わせの場であれ、そっとその仕事っぷりを観察しにいくことが必要です。

管理職が部下の育成に行き詰まる多くの場面で、「もっと話さなければ」という方向に力が向かいます。でも実は「もっと見なければ」という方向に力を向けることで、突破口が開けることがある。話す前に、見る。その順番を意識するだけで、1on1の場の質は変わります。

 

おわりに

観察というと、特別なスキルのように聞こえるかもしれません。でも実際には、日々の仕事の中で部下を意識して見る、ただそれだけのことです。

何を任せた時にいきいきしているか。どんな場面で表情が曇るか。誰と仕事をしている時にアウトプットが出やすいか。そういう断片を、意識的に蓄えていく。

その積み重ねが、1on1の場を変え、アサインを変え、部下との関係を変えていきます。コミュニケーションより先に観察がある。管理職としての土台は、そこから始まるのではないでしょうか。

 

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