次世代経営チームの生まれ方 — サクセッションプランに必要な奥行き

サクセッションプランの実行に向けて、各社さまざまな取り組みをされています。私も関わることが多いですが、その現場を通じて「この観点があると、もう少し設計がしやすくなるのではないか」と感じていることを言葉にしてみます。

 

「育成」と「選抜」の裏側から見えるもの

サクセッションプランは、大きく「育成」と「選抜」の二つで設計されることが多い。候補者を選び、研修を組み、知識を与えて、段階的に経験を積ませる。アセスメントツールや外部アセッサーなども取り入れながら判断を下していく会社も多いでしょう。

この「育成」と「選抜」というのは会社側の目線で語られます。一方で、候補者側の目線ではどうでしょう?現場でサクセッションプランに伴走しながら見えてくる候補者側の目線で見ていきたいと思います。

例えば、サクセッションプランの一環で取り入れられるエグゼクティブコーチング。コーチングを通じて視座を上げていく過程で、経営としてのリアリティが浮かんでくる人がいます。「自分がやる」という感覚が、対話を重ねるごとに少しずつ具体的になっていく。「もし自分が経営者だったら」という仮定が、仮定ではなくなっていく瞬間があります。

一方どれだけ対話を重ねても、そのリアリティが浮かばない人もいます。経験はもちろんですが、そこからの能力面の問題で浮かばないということもあるでしょう。一方、その探究の過程で、心の底で「自分は経営とは違うな」と静かに気づいていくことがあるようです。

実践型の研修プログラムでも同じことが起きます。知識を与え、課題を与え、実践の場に立たせる。その中でうまくいかない場面が必ずやってきます。その時に食らいついて突破口を探す人と、違和感や難しさを感じて動かない人に、少しずつ差がついていきます。プログラムが進んでいく過程で「他のメンバーと自分との違い」が見えてくる。ここから行動は加速もされ、停滞もされていきます。

ここで見えてくることは、サクセッションプランというレールを歩む過程で、候補者自身の自己認識やキャリアの解像度が上がっていくという感覚です。誰かが「向いている・向いていない」をジャッジしているその手前で、すでに候補者の中でもジャッジしている。つまり、外から判断・選抜するのと同時に、その人自身が自分で気づいていく。サクセッションプランとは、そういう双方向の関わりを含んだ旅だと感じています。

 

降りることも、旅の一部

このように旅に連れ出す過程において、途中で違和感を感じる人が出てくることもあります。

本人の意思が続くうちは、その旅にとことん向き合い行動してほしい。一方で、本人の意思がなくなった時 — 経営への意欲が薄れ、「自分はここではないかもしれない」という気持ちが前に出てきた時 — には、別の輝くステージも併せて探索してほしいと思っています。そして、そこまで見越した設計が、サクセッションプランには大切な要素ではないかと考えます。

サクセッションプランに関わる人事や外部支援者は、それぞれの施策の狙いに向けて専門性を発揮しながら、同時に本人の心情の変化にアンテナを張り、視野を広く持って取り組む。あたかも一人のマネジメントとして、自分のキャリアや成長に向き合う多くの部下を支えるような気持ちで関わっていくことが望ましいのではないかと考えます。その人が輝ける場所を一緒に探す姿勢で、最初から最後まで向き合う。そんな姿勢です。

この旅に関わった人が経営幹部になるならないを置いておいて、それぞれが活躍できるように手を打つ。サクセッションプランでありながら、プラン外にも思いを馳せて取り組む。そのような奥行きがあるとサクセッションプランの位置付けも変わるかもしれません。

 

「次世代経営人材像」より「経営メンバーとしてのバリュー」を

「旅の中で候補者が自分で気づいていく」

そういう世界観でサクセッションプランを捉えると、もう一つ見えてくることがあります。旅を共にするメンバー同士の関係性です。

「次世代経営人材とはどのような人物か」とコンピテンシーを定義する取り組みもなされていることと思います。ところが役員陣にインタビューをしても持論ばかりで共通項が見出せない、そんな声を耳にします。

経営陣というのは、個性派が多い。一つの「理想の経営人材」にまとめること自体、なかなか難しいのではないでしょうか。まとめようとはできるけれども、現役役員も誰が当てはまるか見えないスーパーマン像か、誰でもクリアしているが故に事業部長クラスと変わらない基準に落ち着かざるを得ないことが多いです。アセスメントツールが普及している今、わざわざ定義し直す意味があるのか、という問いも出てきます。

それよりも大切にしたい視点があります。「経営チームとしての指針」です。

一人ひとりの能力も大事です。でも一定以上の能力を持っているからこそ、チームの一員としての姿勢が問われる。自分の強みを活かしながら、他のメンバーと補い合えるか。意見が対立した時に、組織全体の利益のために動けるか。経営という舞台で、このメンバーで機能できるか。

このような視点を持つと、候補者を見る目線も変わります。「次の社長になれるか」ではなく、「経営チームの一員として貢献できそうか」という問いで見ることができる。そして候補者自身も「自分自身の能力・成果」ではなく「このチームで何ができるか」という姿勢で臨むようになっていきます。その変化は、育成の質そのものを変えていきます。

そこで有効なのが、経営チームとしてのバリュー定義です。個人のコンピテンシーではなく、このチームが大切にする価値観・行動規範を言語化する。「このチームは何を大切にするか」が共有されることで、候補者の育成基準も、チームとしての一体感も、同時に育まれていきます。これは意外と共通言語化しうるものです。またこのディスカッションは現経営メンバーのチームビルディングとしても価値あるものです。

 

原石たちの旅 — チームの土台はここで生まれる

サクセッションプランの現場は、オーディション番組でデビューを控えた原石たちがメンバー入りを目指して選抜される過程に近いかもしれません。

一人ひとりの能力が試されつつ、本人のコミットメントも問われていく。その過程で「向いている・向いていない」も気づいていく。また、徐々に「このメンバーでやっていくのだ」という自覚が芽生えてくる。

最初はバラバラだった候補者たちが、共通の経験を積み重ねる中で、少しずつ「仲間」という感覚を持ち始める。競い合いながらも、互いの強みを認め合っていく。それがチームとして大切にすることの醸成にもつながります。

企業のサクセッションプランではデビューの時期はバラバラになりますが、いずれこのメンバーで経営をやっていくことになる。その感覚を早い段階から持てるかどうかが、経営チームとしての土台を作ることにつながります。

個人の能力開発だけに集中したサクセッションプランは、確かに穴埋めには有効で、優秀な個人を生み出すかもしれません。でも、経営は一人でやるものではない。チームとして機能する感覚を、育成の過程から意識的に埋め込んでいく。そしてそれだけではなく、途中で外れたメンバーも輝く場所を見つけ、そこでパフォーマンスを発揮していく。そういう設計の「奥行き」が、サクセッションプランには必要だと感じています。

 

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