管理職研修を実施しても、現場の育成力が上がらない理由
管理職研修を実施し、1on1も導入した。それでも、部署によって育成力の差が残り、「人が育っている」という実感が持てない — そういう状況を抱えている人事・育成担当者は少なくない。
問題は研修の質や管理職のスキルだけにあるのだろうか。現場の育成力が上がらない構造的な理由を、整理してみたい。
研修後の満足度は高い。でも、現場は変わらない。
労務行政研究所が271社から回答を得た2024年の調査では、新任管理職研修を実施している企業は89.7%に上る。管理職研修は、多くの企業にとってすでに一般的な育成施策になっている。
(出典:労務行政研究所「人材育成・教育研修に関するアンケート」2024年8月 https://www.rosei.or.jp/attach/labo/research/pdf/000087583.pdf)
一方で、研修を実施していても、部署による育成力の差が残り、現場の変化を実感できないケースがある。
なぜそうなるのか。
よくある説明は「研修が実践的でない」「フォローアップが足りない」「管理職が忙しくて実践できない」といったものだ。これらは問題の一部を指してはいる。しかし、それだけを改善しても現場の育成力が組織として上がらないのには、別の理由がある。
管理職研修と、組織の育成力は同じものではない。
まず、前提として確認しておきたいことがある。管理職研修と、組織の育成力は、同じものではない。
管理職研修は、個々の管理職が育成に関わる知識やスキルを習得する場だ。一方、組織の育成力とは、その組織全体で人が育つ環境が整っている状態を指す。前者が充実していても、後者が高まるとは限らない。
研修で得た知識やスキルが、現場での育成力につながるためには、それを活かせる条件が組織側に整っている必要がある。研修を受けた管理職が「やってみよう」と思った時に、それを支える仕事の機会があるか。周囲の支援があるか。組織として育成を後押しする文化があるか。
この条件が整っていないまま、研修だけを充実させても、学んだことが現場に根づかない。「研修は良かったけれど、職場に戻ったら元に戻ってしまった」という声は、多くの企業で聞かれる。
管理職研修の問題ではなく、研修と現場の間にある構造の問題だ。
個別対応だけでは、育成は完結しない。
では、研修とは別に、日常の関わりを充実させれば解決するのだろうか。
ALL DIFFERENTが同社の管理職向け研修受講者415名を対象に行った2024年の調査では、68.0%が部下育成に対する課題について「とてもよくある」「よくある」と回答している。また、課題を感じる場面では、「部下の成果や知識・スキルが向上しないとき」が35.2%で最多であった。
(出典:ALL DIFFERENT「管理職意識調査(2024年 部下育成編)」2024年9月 https://www.all-different.co.jp/lilab/research/research_107_240917.html)
多くの管理職が育成に向き合おうとしている。1on1を行い、対話を重ね、部下のことを理解しようとしている。
ただ、ここで一つの問いが生まれる。相手を理解した後、その理解が具体的な成長機会の設計につながっているか。
1on1は重要な手段だ。部下の状態を把握し、対話を通じて関係を築く場として欠かせない。しかし、対話で終わってしまうと、育成としては完結しない。理解した結果が「この人には、この仕事を経験させよう」「この役割を任せることで、次の力が育つはずだ」という成長機会の設計につながって、はじめて育成として機能する。
個別対応の質を高めることと、その理解を成長機会の設計につなげることは、同じではない。後者が伴わなければ、丁寧に対話を重ねても、育成の成果にはつながりにくくなる。
上司一人が提供できる成長機会には、限界がある。
成長機会の設計、と言うと、すべてを上司が担うイメージを持ちやすい。しかし実際には、上司一人が提供できる機会には限界がある。
人が成長するために必要な機会は、日常的なOJTだけではない。新しい役割を担う経験、部門を越えたプロジェクトへの参加、難易度の高い課題に取り組む機会、異なる視点を持つ人との対話。こうした機会の多くは、上司一人では用意できない。
上司が「この人には、もっと広い経験が必要だ」と気づいても、それを実現するためには組織としての意思と仕組みが必要になる。人事や上位のマネジメントが関与し、配置や役割、プロジェクトの構造として組み込まれて、はじめて機会が生まれる。
育成を上司と部下の関係の中だけで完結させようとすると、必然的に限界が来る。組織全体が育成に関与する設計が、どこかに必要だ。
育成施策は整っている。でも、一人ひとりの現場とつながっていない。
多くの企業では、育成に関わる施策が複数存在している。研修プログラム、メンター制度、ジョブローテーション、1on1制度、評価制度 —。
しかし、これらが整っていても、一人ひとりの育成課題と接続されていなければ、施策は現場の育成へ転換されない。
「研修があるのは知っているが、この人に今必要かどうかはわからない」「制度はあるが、誰にどう使うかは管理職の判断に任されている」— こういう状況が起きている組織では、施策と個人がつながっていない。
ここには、二つの問題がある。
一つは、人事・育成担当者の側の設計の問題だ。施策が用意されているだけでなく、「誰に・いつ・何のために」という接続の設計が不足している。
もう一つは、組織施策と一人ひとりの育成を、現場でデザイン・活用する側の問題である。その役割を担う管理職には、部下の現在地を見立て、どの機会や関わりが有効かを考え、幅広く施策を知り、選択・活用する視点が求められる。
施策の数を増やすことよりも、施策と個人をつなぐ設計と、管理職の施策活用力が問われている。
管理職の実践が、組織の学びになっていない。
もう一つ、見落とされがちな問題がある。
育成がうまい管理職とそうでない管理職の間に、差が生じることは珍しくない。しかし、その差はなかなか縮まらない。うまくいっている管理職の実践が、他の管理職に共有されず、組織の学びとして蓄積されないからだ。
優れた育成者が個人の経験として持っているものが、組織全体に広がらない。「あのマネジャーの部署は人が育つ」という評判は出ても、その理由が言語化・共有されないまま終わる。
これは偶然ではなく、構造的な問題だ。多くの組織では、管理職が育成についての知見を互いに学ぶ場が設計されていない。成功や失敗から学ぶ機会が個人の経験に閉じている限り、組織全体の育成力は上がらない。
管理職の育成実践が、組織の資産として蓄積されていく仕組みが必要だ。
自社の育成は、どこで止まっているか。
ここまで整理してきた問題を、一度自社に当てはめて考えてみてほしい。
・管理職研修の内容と、現場での育成の実態の間に、乖離はないか。研修で学んだことが現場で活かせる条件が、組織として整っているか。
・1on1や日常の対話が、成長機会の設計につながっているか。理解したことが、仕事や役割、周囲の支援へとつながる流れになっているか。
・上司個人が提供できる機会の限界を、組織として補っているか。育成に関わる人事・組織施策が、一人ひとりの育成課題と接続されているか。
・管理職の育成実践が、組織として蓄積・共有される仕組みがあるか。
これらのうち、どこかで止まっているとしたら、そこが次の手を打つべき場所だ。管理職研修を見直す前に、育成の構造を点検することが、遠回りに見えて近道になることが多い。
iBRIDGEでは、現在の育成施策や現場の実態を整理し、育成がどこで分断されているのかを見立てるところから支援しています。管理職研修の見直しに限らず、個別育成と組織施策の接続、管理職同士が学び合う仕組みまで含めて、各社の状況に応じた次の一歩を設計します。
管理職育成施策を実施しているものの、現場の変化につながっていないと感じている方は、ご相談ください。
リーダー・次世代幹部育成の支援について
管理職育成、次世代幹部育成、現場での実践と組織的な学習を組み合わせ、各社の課題に応じた育成施策を設計します。

