大手子会社のプロパー社員が経営人材になるために——現場から見えてきた「壁」と「突破口」
「自立して動いてほしい」と言われても、どこから手をつければいいのか
親会社からは「出向者に頼らず、もっと自立して動いてほしい」と言われる。現場を見れば、確かにスキルのギャップは感じる。色々と試すものの、なかなか突破口が見出せない。
大手子会社で人材育成に携わる方から、こういった声を聞くことが増えています。悩みを抱えているのに、解決策が見えない。この状況は、担当者の力不足ではありません。問題の根が、個人ではなく会社の構造そのものにあるからです。
なぜプロパー社員はこうなったのか——構造から理解する
解決策を考える前に、なぜこの状況が生まれたのかを理解することが重要です。
子会社の多くは、親会社から特定の機能を切り出してできた会社です。親会社が期待してきたのは「与えられた役割をしっかり遂行すること」です。その期待に応えるために、組織は最適化されてきました。
その環境では、企画・構想・提案といった仕事が自然には生まれません。決まったことを実行する、現場の問題を解決する、という業務が中心になり、それがカルチャーとして定着します。
プロパー社員が企画書を作り切った経験が少ない、提案という行為に慣れていない、ハイコンテクストなコミュニケーションが苦手——これはその人たちの資質の問題ではなく、そういう機会が構造的になかったからです。ところが昨今、親会社側の方針が変わりはじめています。「言われたことだけでなく、自立して動いてほしい」という要求が子会社に向けられるようになりました。求められるものが変わったのに、それを育てる仕組みはまだない。その狭間で苦しんでいるのが、現場の育成担当者です。
プロパー社員が経営人材になりにくい3つの壁
壁1:「実行する筋肉」しか鍛えられてこなかった
企画・構想・計画・ハイコンテクストなコミュニケーション——これらはどれも、「自分で問いを立てて、相手を動かす」ための能力です。
決まったことを正確に実行する、現場で起きた問題を解決する、という仕事の中では、この筋肉は育ちません。「優秀かどうか」以前の問題として、使ったことのない筋肉を急に使えと言われても動けないのは、当然のことです。
壁2:「自分の主張をストーリーにする」訓練をしていない
経営人材に不可欠なスキルの一つに、ドキュメンテーション能力があります。自分の考えを整理して、相手を動かせる論理とストーリーで伝える力です。
口頭では思いや意見を持っているのに、それを資料に落とし込もうとすると途端に曖昧になる。提案書やプレゼン資料を最初から最後まで自分で作り切る経験が、そもそも少ないのだと感じます。これも個人の問題ではなく、その機会を与えてこなかった組織の問題です。
壁3:「自分には無理だ」という思い込みが根付いている
指摘や評価を受け続けてきたプロパー社員の中には、「自分にはそもそも経営は無理だ」という無力感を持っている人がいます。本人も周囲もそう信じてしまっている状態では、いくら「自立してほしい」と言葉をかけても、なかなか動き出せません。スキルのギャップと同時に、この心理的な壁にも向き合う必要があります。
現場から見えてきた「突破口」
会社によって状況は様々ですが、変化が生まれている会社には共通点があります。
突破口1:ドキュメンテーションを「作り切る」訓練をする
最初から最後まで自分で提案書・企画書を作り切る機会を、意図的に設けることです。完成度は問いません。途中で手を入れたくなりますが、まず作り切らせることが重要です。
この訓練を重ねることで、主張をクリアにする習慣が身につき、論理的思考力が鍛えられます。「自分の考えを形にする」という体験の積み重ねが、経営人材への第一歩になります。
突破口2:「新ビジネス提案」を体験させる
既存業務の改善提案ではなく、ゼロから提案するプロジェクトを経験させることも有効です。
答えがない問いに向き合い、自分で仮説を立てて動く——この体験は、実行文化の中で育ってきたプロパー社員にとって、大きな意識の転換点になります。うまくいかなくても構いません。「自分で提案する」という感覚を持てるかどうかが重要です。
突破口3:社外の人間が伴走する
社内の評価や上下関係から切り離された外部の人間が、プロパー社員の成長に伴走することが、思いのほか効果を発揮します。社内では話せない本音を語れる場が生まれ、自己認識が変わります。「実行文化」の中では得られない視点を持つ人間と定期的に対話することで、「自分で考える力」が少しずつ育まれていきます。また、指摘を「ダメ出し」と捉えることが少なくなり、無力感の解消にも繋がります。
育成担当者に伝えたいこと
解決策が見えないまま苦しんでいる方に、一つだけお伝えしたいことがあります。
この問題は、あなたの力不足ではありません。ビジネスモデルが生み出してきた構造的な問題であり、一人の担当者が単独で解決できるものでもありません。
だからこそ、「何か一つの研修をやればいい」という発想ではなく、経験を設計し直すという視点が必要です。そして多くの場合、それを社内だけで完結させようとすることが、解決をさらに難しくしています。
「プロパー社員に足りないのは何か」ではなく、「プロパー社員に与えてこられなかった経験は何か」この問いの転換が、突破口を見つける第一歩になると考えています。
おわりに
「言われたことだけでなく、自立して動いてほしい」という要求は正しい方向です。ただ、それを実現するには、これまで作られてこなかった経験と文化を、意図的に作り直す必要があります。
一朝一夕にはいきません。それでも、正しい設計と継続的な伴走があれば、プロパー社員が経営人材に育つ道筋は作れると、現場を見てきた中で感じています。iBRIDGEでは、この「構造を作り直す」プロセスに長期で伴走する支援を行っています。まだ答えが見えていない部分も正直にお伝えしながら、一緒に試行錯誤できるパートナーでありたいと思っています。
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